ウエスタンランドにそびえる、赤茶色の岩山。ビッグサンダー・マウンテンのふもとには鉱山会社の駅舎があり、列車が岩肌のあいだを走り抜けています。地下へ続く洞窟と地上の線路、水辺の小屋。遠くからはひとつの山に見える場所にも、近づくほどに違う仕事と暮らしが現れます。
この山の奥には、昔から超自然的な力がひそむといわれていました。金を求める人々が押し寄せるよりも前から、不気味な話が人々を遠ざけ、山へ入ることをためらわせてきたのです。赤い岩の下にあるものは、容易に手を伸ばせる富ばかりではありませんでした。
駅舎に入ると、そこには発掘作業の機械や道具だけでなく、鉱夫たちの持ち物も置かれています。窓の外には採掘現場が広がり、足元には地下へ続く設備がある。岩山を遠くから眺めていたときには見えなかった、人の暮らしの近さです。
今はゴールドラッシュの全盛期ほどの活気はありません。しかし、駅舎には人の姿があり、洞窟の鑑定所では火が燃えています。駅を出発する列車の運転室には、機関士の姿がありません。山の言い伝えは、過ぎ去った昔だけの話ではありません。
山に転機が訪れたのは1850年代のこと。ひとりの老いた探鉱者が、この場所で金を発見しました。長く人々を遠ざけてきた岩山へ、今度は富を求める人々が向かいます。採掘の経験のない者たちも、西へ向かう人の流れに加わっていきました。
このころ勢いを増したのが、ビッグサンダー・マウンテン・マイニング・カンパニーです。鉱山会社は約30年にわたり、大量の金を産出しました。ひとつの発見から始まった金探しは、やがて鉱石を掘り、運び、調べる仕事を抱えた、長い鉱山の歴史になっていきます。
採掘場から駅舎へ、さらに金の重さを量る鑑定所へ。山をめぐる線路のそばには、鉱石を運ぶ設備が集まっています。金を見つけるだけで終わらず、それを運び出し、価値を確かめるところまでが、この鉱山の仕事でした。
やがて1880年代に入ると、山の資源は乏しくなり、長く続いた産金に陰りが訪れます。鉱夫たちは残る金を求めて、さらに深くへ向かうようになりました。地上の設備の下には、そのころ掘り進められた坑道が、今も続いています。
駅舎の中には、発掘作業に使う機械や道具とともに、鉱夫たちの持ち物が置かれています。鉱山会社の名を掲げるこの建物は、山を走る列車の駅であり、地下の仕事へ目を向ける場所でもあります。窓の外には採掘現場が広がり、建物の内側では、床下へと続く設備が目に入ります。
床下の坑内から天井に向かって、一本の線路が垂直に伸びています。そこに固定されているのは、地下と地上のあいだで鉱石や物資を運ぶトロッコです。山の外側を走る鉱山列車とは違い、この車両は同じ場所を上下して、離れた仕事場をつないでいます。
地下からは採掘した鉱石を上げ、坑内で必要になる物資は下へ送る。鉱夫たちにとって、このトロッコはエレベーターのような役目を担います。駅舎の床下をのぞくと、金を掘る仕事の奥行きは、岩山の横の広がりだけでなく、足元から続く深さとしても見えてきます。
近くの壁にはベルがあり、そのそばにトロッコの使用規則と合図の説明が取り付けられています。1回鳴らせば上昇、2回鳴らせば下降。地上と坑内で離れて働く人々は、ベルの音の回数によって、車両をどちらへ動かすのかを伝え合います。
地上から坑内へ声を届ける代わりに、壁のベルが鳴る。回数が変われば、トロッコの向かう先も変わります。大きな設備のそばに取り付けられた小さな説明書きですが、ここでは音を聞き分けることも、運搬の仕事の一部です。
垂木に固定されている、金網でできた担架も見逃せません。坑内で事故が起きたときには下へ降ろし、負傷した鉱夫を乗せて引き上げるためのものです。鉱石や物資を運ぶ設備の近くに、地下で働く仲間を地上へ戻すための備えが置かれています。
鉱石を入れる車両と、人を横たえる担架。どちらも地下と地上を行き来するためのものですが、運ぶものは違います。天井を見上げてから床下へ目を戻すと、駅舎は、山の外へ向かう列車と地底へ向かう仕事が出合う場所になっています。
駅舎を離れる前、列車が左へ曲がるところに、洞窟の中の鑑定所があります。ここは金塊の重さを量り、お金に換える場所です。山から金が採れても、それを調べ、価値を確かめる仕事は別にあります。坑道から地上へ運ばれた金を、その先で受け持つ仕事場です。
中には、鑑定に使う秤が並んでいます。山から引き上げられた金塊は、ここで重さを量られます。坑道から鉱石を運ぶ大きなトロッコを見た後では、洞窟の奥に据えられた秤の小ささにも目が留まります。
さらに、金をのべ棒にするための型や道具も置かれています。そして、その作業に使う火は、今も赤々とたかれています。金を溶かす熱が、この場所では働き続けています。洞窟の暗さの中に見える炎は、鉱山の現在へと目を向ける手がかりになります。
秤とのべ棒の型は、それぞれ役目の違う道具です。同じ洞窟の中に、重さを確かめる場所と、金を溶かして形を整える場所がある。通り過ぎる列車のそばで、坑道から運び出した金を扱う仕事が続いています。
全盛期のにぎわいが去った後も、ここは採掘の続く鉱山です。火は絶えることなく、駅舎に残る持ち物と同じように、洞窟の道具にも、今なお使う人の気配が漂っています。
鉱山の暮らしは、金を掘り、量る仕事だけで成り立っているわけではありません。金網に覆われた掲示板には、ポニーエクスプレス、土地測量会社、金分析事務所、駅馬車など、さまざまな広告が貼られています。文字を追うと、駅舎の外へ続く人や物の往来が見えてきます。
ポニーエクスプレスは手紙を、駅馬車は人を運ぶもの。測量と金の分析の広告は、土地や鉱石に関わる商いです。ひとつの掲示板に、遠くと連絡を取るための用事と、この場所で金を探すための用事が並んでいます。
広告の中には、ウイスキーやタバコ、催し物の案内もあります。生活に必要な連絡や商売の知らせのそばに、仕事から離れた時間に関わるものも並ぶ。掲示板の紙片には、鉱山へやって来た人々が、掘る仕事以外にも用事を持っていたことが表れています。
駅舎の外へ目を移すと、小屋のあいだには洗濯の道具が残っています。木枠から吊り下げられた鉄釜は、鉱夫たちが洗濯に使うもの。小屋を結ぶロープには、バンダナや肌着が干されています。地面を掘る機械とは違う働きをする鉄の器が、暮らしのすぐそばにあります。
岩と鉄と線路の景色の中で、干された布は柔らかな目印になります。仕事着を洗い、ロープに掛け、乾くのを待つ。金を求めて来た人々にも、山で暮らす一日がありました。小屋のあいだの鉄釜は、その暮らしのための道具です。
今もここで働いているのは、鉱夫や鉄道の保線作業員たちです。ゴールドラッシュの時代に富を夢見て西部へ来た人々は、全盛期のにぎわいが去った後も、山に関わる仕事を続けています。訪れた人々を、昔からの仲間のように温かく迎えるのも、彼らです。
そのあいさつは「ハウディ」。もとは英語の「How do you do?」が短くなった言葉です。駅舎で交わされる声には、西部らしい響きが残っています。機関士のいない列車が走るこの山にも、訪れた人を迎える人々がいます。
山の資源が乏しくなった1880年代、鉱夫たちは爆薬を使い、さらに深い場所へと掘り進めるようになりました。約30年にわたる産金の後、鉱夫たちが向かったのは、山のさらに奥でした。その先で、人々の手に負えない異変が起こりはじめます。
新しく開いた坑道からは、奇妙な音が聞こえるようになりました。機械には故障が相次ぎ、坑内の設備にも異変が及びました。金を取り出そうと深く入るほど、昔からこの山で語られてきた、目に見えない力が身近になっていきました。
そして鉱山列車は、機関士のいないまま駅を出ていくようになります。鉱夫や保線作業員が働く駅から、空いた運転室のまま、列車は岩山と洞窟のあいだへ走り出していきます。
坑内にとどろく不審な物音、ゆらゆらと揺れるランプや鉱山バケツ。普段なら仕事を支える道具も、ここでは落ち着いた姿を保っていません。地上と地下を結んできた鉱山の中で、働く人々の営みは、今も山の異変と隣り合わせにあります。
岩山のふもと、水辺に目を向けると、愛犬をそばに置いて釣りをする老人がいます。セドナ・サム。かつてこの鉱山で採掘現場の監督を務めた人物です。引退した後も山を離れず、犬とともにここで暮らしています。
サムは桟橋のロッキングチェアでくつろぎながら、釣り糸を垂れています。列車が通る岩山のそばに、ゆっくりと腰を落ち着ける場所がある。現場の監督だった人の今をたどると、鉱山には働く時間だけでなく、仕事を退いた後の暮らしも続いていることがわかります。
愛犬の名はディガー。その名には、サムを救った出来事が残されています。サムが落石で埋まってしまったとき、掘り出して助けたのが、この犬でした。この救出が、ディガーという名の由来です。水辺で寄り添うひとりと一匹には、危難を越えたつながりがあります。
釣り糸の先へ向くサムと、そのそばにいるディガー。ふたりの静かな姿を見てから犬の名前を思い返すと、水辺の眺めも少し変わります。今はくつろいでいるこの犬は、かつて落石の下からサムを救い出しました。
鉱山列車がたどる山には、採掘の設備とは違う風景も広がっています。暗い洞窟にあるのは、輝く石筍と鍾乳石です。地面から伸びる岩と、天井から下がる岩に囲まれた空間を抜けると、地上にはサボテンの根づく峡谷が続きます。
さまざまな種類のサボテンが並ぶ、サボテン峡谷。山の入口にもサボテンがあり、花を咲かせることがあります。岩肌を走る列車を目で追っていると見落としてしまいそうな場所にも、目を留めたくなる植物の姿があります。
橋をくぐった先には、オポッサムの家族がいます。木の枝から尾でぶら下がっているのは、母親と2匹の子供。父親は、その近くの岩の上にいます。枝の上と岩の上へ視線を動かすと、ひとまとまりの家族の姿が見えてきます。
コヨーテ・キャニオンでは、コヨーテたちが遠吠えをしています。その先には鉱夫たちの小屋があり、洗濯物が干されています。洞窟、サボテンの峡谷、動物たちのいる場所、小屋のある暮らしの場所。山をたどる道筋には、異なる景色が続いています。
赤い岩山の表情も、時間や天候によって変わります。夕焼けに包まれる山、雨上がりに虹の見える空。地底には言い伝えの残る鉱山があり、その地上では、働く人と動物たちの日々が、それぞれの場所で続いています。
東京ディズニーランドに、この赤い岩山が開かれたのは1987年7月4日。山の姿と、そのふもとで営まれる仕事を形にするため、イマジニアたちは岩の造形と建築に取り組み、鉱山を満たす道具をそろえました。
初代カリフォルニア版では、トニー・バクスターがユタ州のブライスキャニオンから着想を得ています。一方、東京を含む後続の3施設は、モニュメントバレーに似た景観を備えています。シリーズの岩肌はセメントと塗料で造形・彩色され、西部のゴーストタウンでは鉱石用の車両や歯車、バケツが集められました。こうした制作と収集の仕事を、東京でも担ったひとりがパット・バークです。
バークは、建築を担当する仲間とともに、川石を使う仕上げや柱と梁の構成を東京の乗り場の建物に用いました。採掘で出た石の積み重なりを思わせる扱いも、その仕事のひとつです。彼が2009年に語った回想には、山の輪郭だけでなく、石と木を組み合わせた駅舎へ向かう視線が残っています。
入口の左側には、大きな鉄の車輪を持つスチームトラクターが据えられています。円筒形のボイラーから煙突が立ち、脇には大きなはずみ車。後ろの車輪は前輪よりも大きく、接地面には、鉄の突起が並んでいます。背後の駅舎を行く列車とは、ずいぶん違う足回りです。
近づいて見ると、車体の前面に「RUSSELL COMPOUND」と「9596」の文字と数字があります。ラッセルというメーカーの名と、機械を識別する番号です。その上にある丸い部分には、「BIG THUNDER IRON WORKS」の銘も付いています。側面の山の名だけでなく、ボルトに囲まれた小さな銘にも、目を留めたくなります。
スチームトラクターは、線路を離れて働く蒸気の機械です。蒸気の力で車輪を回して進み、農業では鋤を引いたり、止めた車体からベルトを掛けて脱穀機などを動かしたりしました。横に張り出したはずみ車は、走るための車輪とは別の働きを担います。移動するだけでなく、ほかの機械へ動力を渡すこともできたのです。
その仕事には、機械を扱う人々も欠かせませんでした。ベルトや軸受を調整する人、燃料をくべる人、水を運ぶ人。これは蒸気を使った農作業の歴史ですが、ボイラーと大きな車輪を備えた機械が、どのような手間とともに働いていたのかを知る手がかりになります。燃料と水を補い、動く部分に目を配りながら使う、大がかりな仕事道具でした。
駅舎へ向かう柵のそばでは、ボイラーの丸み、はずみ車のスポーク、車輪へつながる歯車が、ひとつの車体に収まっています。山の名を描いた胴体の下まで目を移すと、赤い岩だけを見ていたときとは違う、鉄の機械の細かさに出合います。
東京向けのセットや鉱山道具を準備していたころ、バークはカリフォルニアのトゥジュンガで仕事をしていました。隣では『キャプテンEO』を撮影中。その撮影に来ていたマイケル・ジャクソンが車から降り、金網の向こうに並ぶ道具へ近づいてきます。
ジャクソンが尋ねたのは、それらの行き先でした。バークは、東京に造る3番目のビッグサンダーのためのものだと答えました。ジャクソンは自分の敷地にも欲しいという趣旨のことを話したと、バークは振り返っています。鉱山の道具を整える仕事場に、隣の映画の主演者が訪ねてきたひとときでした。
バーク自身も、隣で行われていた踊りの撮影を見たいと思っていました。しかし、その日が撮影の最終日だったと知ったのは後のこと。彼の手元には、まだ片づける仕事が残っていました。東京へ向かう鉱山の準備と映画の撮影は、すぐ隣で進みながら、それぞれの予定で動いていたのです。
道具は、集めればそれで仕事が終わるわけではありません。東京向けの配置作業には、大きな機器を据え、関連する部分をつなぎ合わせ、圧力計や笛などの小部品を取り付ける工程が含まれていました。バーク旧蔵の図面には、機械の並びや室内を描いた初期案もあります。地面に置く位置から、機械に付く小さな部品までを整える仕事でした。
東京の乗り場付近には、別の場所で働いた列車も受け継がれました。バークの回想では、カリフォルニアの「マイン・トレイン・スルー・ネイチャーズ・ワンダーランド」で使われた列車の一部を、1987年にここへ転用しています。現在、山を走っている旅客用の鉱山列車とは別の車両です。
入口の大きなトラクターから駅舎へ入り、柱と梁、ベル、道具へと目を移す。山の中を走る前にも、立ち止まる場所はいくつもあります。赤い岩山の下で暮らす人々の物語を、イマジニアたちは、そうした小さな場所まで形にしていきました。
資料確認日:2026年10月31日
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